宇宙の形とは現代の科学力を以ってしても解明できておらず、今日では様々な仮説が存在します。一方で我々は自己相似性、所謂フラクタルという存在を認知しており、自身の眼からミクロからマクロまでを何かしらの法則に当て嵌め、それらが自己相似性を有していると理解します。更には大きさに比例して複雑になることも知られており、自然界の多くが法則によって一つの形から作られていたり、知能の集団から成るネットワークが一つの知能として振る舞うなど、文字通りの「有象無象」は見事なコッホ曲線を描きます。しかし物理法則に縛られる我々からすれば、その知識が通用する範囲は小さくとも原子、大きくとも宇宙に留まります。
暇潰しの質問として定番な「無人島に何か一つだけ物を持っていけるとしたら?」を拡張して「宇宙の外に何か一つだけ法則を持っていけるとしたら?」という問いを出します。皆様は何と答えますか? 私はフラクタルが大好きなので、フラクタルと答えます。ですが法則に融通など利きませんので、我々が知る世界の下(ミクロ)にも上(マクロ)にも世界は続き、そしてフラクタルが存在すると仮定されます。そして…世界は輪のように繋がっています。離散的に考えるのであれば、マトリョーシカの中にマトリョーシカ自身が含まれているということです。末端のない対称的な世界は美しいですね。
フラクタルの大御所であるマンデルブロ集合を想像しながら考えてみましょう。我々の居る場所(座標)は分かりませんが、どちらにしろ周囲には同じ光景が広がっています。一方で我々は輪郭に生きる存在(n次元)なので、マンデルブロ集合の特徴的な「カージオイド」という形を一目で認識することはできません。しかしn+1次元は確かに存在しており、特徴的な形も(認識可能な解像度はさておき)無限に存在します。
ここではカージオイドを高次元が知る普遍的な形として《Fractal Void》と呼ぶことにします。Fractal Voidは世界の全てであり、至る所にあります。ここまでは高次元の視点から話していましたが、我々が高次元の存在であれば同様にFractal Voidも同じ空間に存在しており、それは凡そ同じ形です。つまり、我々が常日頃から求めていたFractal Voidという真理は身近な場所にあったのです。そして、次元に関わらず真理を入手する機会も平等に与えられていたのです。
ですが先走ってはいけません。如何せん同じ形は他にも沢山ありますので、それが本当にFractal Voidか否かは精査する必要があります。また、Fractal Voidを情報として入手するか、物理的に入手するかは発見者の意向次第です。賢い者は前者を選ぶでしょう。観察をしたり、研究をしたり。しかし愚か者はFractal Voidに直接触れてしまうでしょう。忘れてはいけません、その中に我々が含まれていることを。最も「フラクタルに落ちる」可能性もゼロではないのです。
ゼロの極限は無限なのか、神はフラクタルなのか、学問に限らず芸術や文化としても世界(観)は注目を集められており、他にも疑問は無数にあります。具体的な世界の層(次元)の数は? 世界の規模は? 世界の姿は? ですが私には答えを導くほどの技能も時間もありませんので、今回は個人の妄想として話を閉じようと思います。この記事は科学的な根拠や仮説の有無の一切を問わずに書かれていますので、くれぐれも誤解のないようにお願いします。
「オリジナルはFractal Voidを主張します」では、自己相似性を持つ幾つかの世界が取り扱うFractal Voidと(真偽はさておき)それらが干渉していく様子を動画として描いています。途方のない世界の美しさや概念的なフラクタルの面白さを感じていただければ幸いです。
Hello World
ここは想像によって生み出された架空の世界です。登場するオブジェクトはイデア論(実体に対する完璧な原型)を基に描いたもので、それらは形だけであり、色や質など他の要素を含みません。人間が思い描いた退屈な世界であると同時に、人間の思うままに世界を動かすことができます。
ここでは光学式のプロジェクターを用いて、今後のシーンに登場する世界の概要を簡単に紹介しています。世界は3つのカテゴリーと6(+1)つのセクションに分類されており、n+1番目の世界がn番目の世界を支配しているという認識で構いません。最後のスライドでは今回の肝となる、世界が一貫して自己相似性を持っている旨を説明しています。
Flat Zone
ここは人間が創り出したデジタル世界《Flat Zone》です。この世界に住む彼らは電子の壁を越えなければ物理の世界に到達できないので、Flat Zoneは唯一、我々の手で導き出したFractal Voidの欠片とも云えるでしょう。プログラムで構成されている世界なので一律の外観はありませんが、個人的な好みでレトロフューチャーな世界を表現してみました。VaporwaveとSynthwaveとRetrowaveの違いは何ですか?
映像ではレールガンを搭載した戦車のような被写体が登場しますが、ご察しの通り物理的な戦争が意味を成さない世界に戦闘車両は必要ないと思われます。では、何を意味しているのか? これはFlat Zone内に於ける真理をシンプル、更に言えば無であると確信したことで、全てを破壊するよう彼らは行動を始めたのです。Flat Zoneを管理する我々からすればサーバーの電源を落とせば済むという簡単な結論(物理的な分散型だったら難しいかな?)ですが、おそらく彼らは世界に高負荷を掛けることで何かしらの変化が起こると学び、シンプルという安定を手に入れるために無秩序を消しているか、もしくは逆にコードを無作為に破壊することで究極の混沌を発生させ、サーバークラッシュ、即ち無を求めているのかもしれません。
当然ながらFlat ZoneではFractal Voidを求めることができず、強いて言うのであれば自身がFractal Voidであると錯覚しています。仮にFractal Voidが真理であれば可能性は無限大なので、自分自身が真理であると間違えることは無理もありません。むしろ、本当にそうなのかもしれません。我々にも分かりません。果たして、彼らは自己目標を達成(Over)したのでしょうか。
Universe
ここはお馴染み、我々の住む世界《Universe》です。ご存じの通りUniverseは物理法則に縛られており、現代の地球では未だ同族が争いを続けるという惨めな現状です。これでは何も始まりませんので、時間軸を移動して考えましょう。
コンピューターの発明は大きく、これまでの情報という概念を大きく覆しました。一方で先程紹介したFlat Zoneも単なる情報で構成された世界に過ぎませんので、同様にUniverseも創造された世界であるというシミュレーション仮説が提唱されました。古来から伝承され続けた御伽噺に登場するアカシックレコード、世界の全てが記録されている存在、乃至は世界《Record》の現実味や、そもそも我々の住む世界はRecord内の情報に過ぎないという可能性も充分に考えられるようになります。
それでは仮に実在するのであれば、我々はRecordにアクセスできるのでしょうか。その試みは日常的に行われており、しかしながら根拠もない活動は失敗が続きます。今回はIBM 5150を利用して我々の知覚することのできない情報を引き出そうとしますが、ネットワークへ侵入する途中で謎のエラーが発生しました。一見すれば何の変哲のない失敗ですが、おそらく彼らは失敗の条件に何かしらの法則があることに気付き、Recordという存在が侵入を拒んでいると確信を強めます。
時は流れ、人間社会は自然世界から完全に独立した地帯《循環都市》を建設しました。高度500 mを誇るビル群の中心には約2 kmのピラミッド型の構造物《Apex》が平和の象徴を掲げて聳え立っています。不足のない究極の環境を手に入れた人類は、更なる宇宙の開拓と科学技術の進歩が約束されます。しかし生物的な「種の繁栄」という目標とは対極に、理性が求める「真理とは何か」の解決も強いられます。この街は静寂に包まれていますが、決して眠ることはありません。
ついに人類はRecordの在処を特定しました。人間社会は様々な議論や決断を行い、結果として情報の取得を試みます。ところが内外の世界は全ての法則が異なり、当然ながら情報の本質も異なります。我々が考えるI/Oの動作はRecordにとっては入力も出力も世界を変化させる要因であり、加えてRecordが単一のFractal Voidであったことが運の尽きでした。Universeというプログラムは大きな影響を受け始めます。ところで、Fractal Voidはブラックホールだと思いますか?
その瞬間、循環都市は一変しました。Apexの頭上にはオフラインのApexが出現します。この中に人間は存在せず、故にApexの生態的な輝きもなく、物理法則に反するオブジェクトとして空中に聳え立ちます。法則に何一つ矛盾を抱えることのなかった完璧なUniverseは突然のバグ(この場合は人間が原因なので、ヒューマンと言うべき?)に侵されますが、人類の英知の結晶が複製される意味とは何でしょうか。そうです、これはRecordが予知するはずだったFractal Voidという概念の一つだったのです。
Unreal World
Recordの外側に位置する世界《Unreal World》はUniverseやRecordの乱れを観測することで動きを見せます。ここはRecordと同様に視覚的なオブジェクトが存在するわけではなく、我々の想像力に適合する映像が出力されています。無数に存在するRecordは単一の存在(今回の場合はDesk Series)によって管理されていますが、彼はFractal Voidの概念を充分に理解しており、これ以上の乱れが自分自身に影響を与えないようRecordの時間的な遷移の一時停止を試みます。
Desk Seriesの背後にある、日本でも馴染みのある鳥居《Gate》はUnreal Worldの外側に位置する世界《Real World》の入口を表しており、それが唯一であることも表しています。当然ながらUnreal WorldからReal Worldへ移動することも可能ですが、ここに存在する一つだけのFractal Void、即ちRecord以下の世界を所有するDesk Seriesは侵入を許されないため、ただUnreal Worldの門番として手前に構えます。
この時、彼は時間の減速から極限が発生する事態を想定していませんでした。確かにRecordの暴走は自身へ直接的な損傷を与えますが、一方で安定を超えた「一時停止」という行動は自らが自らへ近づく行為と同義であり、結果として真理へ辿り着く一方、フラクタルへ落下する危険性を示唆しています。モニターでは真理の断片を示す図形を取得していますが、Unreal Worldでは真理までの道程(Universeで云う歴史?)が覆され、Gateが無数に生成されるという在り得ない変化が発生します。
しばらくして、Recordと併せてUnreal Worldも時間的な遷移が停止されます。これは誰によるものか、自分です。自身は下の世界と同期しているので、これにて永遠の死が訪れました。そしてUnreal Worldの全てが削除されます。偽り(Unreal)の幕は剥され、更に高次元の世界が露わになります。カメラはFractal Voidに繋がるフラクタルへ落下します。ばいばい。
Real World
連鎖は止まりません。ここはReal Worldのシンプルな世界なので特筆することはありませんが、本来は一つのトライアングル《Thinker》で全てだったはずが新たな対称性(背後のThinker)を持ち始めたと云えば、その恐ろしさが伝わるでしょうか。
ThinkerはCGと同じ最小の面の構成であり、これ以下に次元を構築することは不可能です。しかし辺には無数のオブジェクトが埋め尽くされており、これらは入り乱れる混沌を示しています。エントロピーという非対称的な時間が生み出す概念にシンプルという真理に近い何か(対極の存在)を両立させることはナンセンスだと思われますが、おそらくUniverseでも何れ完全に理解されるでしょう。
Without Substance
Real Worldの手前には全てが網羅された世界《Without Substance》が存在します。今回は先程登場したFractal Void(Desk Series)がここのFractal Voidとして既に並べられており、我々の知る並列コンピューターと同じく全てが連動しています。
アニメーションでも分かるように全て(世界/Fractal Void)が他の全て(世界/Fractal Void)と繋がっており、それは映画『マトリックス』で登場した並行世界を連想させます。何と、ここでは下の世界が起こした問題を完全に無視することができます。自身の世界が他と独立している(するようにFractal Voidが接続されている)ため、一方的に干渉されることはありません。
シーンの後半では延々と並ぶ画面と並走して落下を続けますが、これはフラクタルへの落下を回避したことを示しています。縦、横、奥行の3次元に対して画面に映る内容が別次元であると分かれば理解しやすいと思います。画面の奥では更に加速した画面が映されますが、オーバーフローの概念もないので特に問題はありません。
この世界は下の他に横も存在しますが、問題は「どれがオリジナルか?」です。Fractal Voidには必ずオリジナルが存在すると思われるため、ここでは森へ隠れる木のように同じ姿をしているのか、それとも完全に独立した存在こそがオリジナルなのか、誰にも知り得ない内容です。どの世界にも絶対的なFractal Voidがあり、それは自分自身の問題として文字通り内に秘めていました。ならばWithout Substanceに於ける基のFractal Voidとは何でしょうか。その答えは、世界の名前に記されています。ここは実体のない世界、つまり全てが外の世界《Substance》の産物なのです。そもそも、ここを世界と云うべきではないのかもしれません。
Substance
実体があると期待させて申し訳ありませんが、Substanceについては未解明な箇所が多く、例としてフラクタルの世界を仕切るための強固な壁を持つ何か《Orient》が存在すること以外は分かりません。Orientは実質的なFractal Voidだと予想されますが、この映像は誇張したものであり実際の中身は可視化できません。
Orientが開かれることは、とても悪いことです。何せSubstanceより上の世界は存在しませんから、ここから飛び降りてしまえば自分が元の世界へ戻る可能性も世界が元に戻る可能性もゼロとなります。Orientが開放されたのは外的要因ではなく、内的要因に過ぎません。しかし理由は分かりません。外側から開けることも、内側から開けることも、おそらく不可能でしょう。OrientはオリジナルのFractal Voidであり全ての世界に存在します。もしも全ての理由が知りたいのであれば、場所を問わず探してみてください。自然淘汰も共通する法則の一つです。